ビル用マルチエアコンとは？基礎知識や他の業務用エアコンとの違いを解説

ビル用マルチエアコンは、オフィスビルや大型商業施設など、多様な用途に対応する高性能な空調システムです。

本記事では、ビル用マルチエアコンの特徴や、他の業務用エアコンとの違いを詳しく解説します。また、ビル用マルチエアコンを導入する際のメリットとデメリットにも触れているので、ビルや大規模施設の空調管理を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

ビル用マルチエアコンとは

この章では、ビル用マルチエアコンの特徴や種類を紹介します。

・ビル用マルチエアコンとは？

ビル用マルチエアコンは、1台の室外機で複数の室内機を個別に運転可能な空調システムです。異なる容量の室内機を接続し、冷暖房を個別に調整できる機器もあるため、各部屋で異なる温度設定が求められるオフィスやホテルなどに適しています。

また、冷媒配管の長さは最大1,000メートル、高低差は最大50メートルまで対応し、設置場所の自由度が高いことも特徴です。

・ビル用マルチエアコンの種類

ビル用マルチエアコンは、設置場所や用途に応じて選べる6タイプがあり、多様なシーンに対応します。

＜リニューアルタイプ＞

リニューアルタイプは、既存の冷媒配管を利用して交換できるタイプです。少ない工数で、スムーズに空調を更新でき、コストも抑えられます。既設の配管や配線を活用するため、病院やサービス業など工事時間の確保が難しい場所でも迅速な対応が可能です。

＜冷暖同時/切替タイプ＞

冷暖同時/切替タイプは、冷房と暖房を同時に運転できるタイプです。部屋ごとに温度差が生じる場合に有効で、日差しや機器の熱による温度変化にも対応します。エアコンごとに冷暖房の切り替えができるため、ホテルや施設での利用に最適です。

＜コンパクトタイプ＞

コンパクトタイプのエアコンは、クレーンを使わずに設置できる小型の室外機を備えています。狭いスペースやクレーンが使えない場所に適しており、広さに制限のある店舗や工場の倉庫などにも手軽に設置可能です。

＜氷蓄熱タイプ＞

氷蓄熱タイプは、夜間に氷を生成し、その氷を昼間の冷房に利用する方式です。省エネルギー効果が高く、室外機と室内機の間に氷蓄熱槽を配置することで、効率的な冷房運転が可能となり、日中の電力消費がピークに達する時間帯でも消費電力を抑えることができます。

＜高暖房タイプ＞

高暖房タイプは、外気温が低い寒冷地でも強力な暖房機能を発揮する空調システムです。凍結防止機能や高性能コンプレッサーを備えており、霜や雪による不具合を防ぎ、長時間連続で安定した暖房を提供します。暖房の立ち上がり時間が短く、省エネ効果が高いことも特徴です。

＜水熱源タイプ＞

水熱源タイプは、水配管を活用して個別の空調を行う方式です。長い配管が容易に配置できるため、高層ビルや地下街などに非常に適しています。水の温度が一年を通して安定しており、効率的で安定した冷暖房が提供され、運用コストの削減も可能です。

ビル用マルチエアコンと他のエアコンとの違い

ビル用マルチエアコンと業務用エアコンはオフィスや店舗で使用されますが、用途に違いがあります。

・ビル用マルチエアコンと店舗用エアコンとの違い

ビル用マルチエアコンは、複数の室内機を個別に運転でき、室外機と室内機はそれぞれ独立した電源を使用します。一方、店舗用エアコンはすべての室内機を同時に運転し、電源も連動していることが特長です。

個別に運転できるビル用マルチエアコンは、高層ビルや大規模な施設に適しており、室内機と室外機が連動する店舗用エアコンは、小規模な施設や店舗に向いています。

・ビル用マルチエアコンと設備用エアコンとの違い

ビル用マルチエアコンは、1台の室外機で複数の室内機を個別に操作でき、主にオフィスビルやホテルなどで使われます。

一方、設備用エアコンは、工場や厨房、ショッピングセンターなど大規模施設での使用が一般的です。機械室に設置され、ダクトを通じて空気を送る仕組みで、部屋ごとの温度設定はできません。分離形と一体形があり、特定の稼働時間や環境に適した大量の空調が必要な場所に適しています。

ビル用マルチエアコンのメリット

ここからは、ビル用マルチエアコンのメリットを見ていきましょう。

・高い省エネ効果

室外機と室内機が別電源で、個別運転するビル用マルチエアコンは、未使用の室内機をオフにしたり、使用状況に応じて調整したりすることが可能です。

そのため、省エネ効果が高く、消費電力を削減して、長期的には電気代の節約も期待できます。効率的な運転によって、経済的にも環境的にも優れたエアコンです。

・室内機の種類が豊富

ビル用のマルチエアコンは、壁掛けタイプや天井埋め込みタイプなど、さまざまな形状や容量の室内機がそろっており、部屋のサイズやレイアウト、用途に合わせて柔軟に設置することが可能です。

インテリアに調和する最適な機種を選ぶことで、快適な空調環境を提供しながら、デザイン性も保てます。

・室内機の増設ができる

室内機の増設が可能であることも、ビル用マルチエアコンのメリットの一つです。機器設置のスペースをはじめ、配管や電源線の増設も必要ですが、室外機を増やすことなく、既存の室外機に新たな室内機を接続することができます。

・間取りに柔軟な対応ができる

ビル用マルチエアコンは、設備設計の自由度が高く、特殊な形状や複雑な間取りに柔軟に対応します。そのため、ビルの構造に合わせて最適な空調システムを構築可能です。

ビルの利用状況や間取りに応じて、自由度の高いエアコンシステムを組む際に役立ち、快適な環境を実現します。

・導入費用を抑えられる

ビル用マルチエアコンなら、初期コストを抑えながら効率的な空調システムを導入できます。

1台の室外機で複数の室内機を運転できるため、室外機の台数が少なく済み、設置費用を削減することが可能です。さらに、各室内機に電源線を渡らせる為、個別に電源を設ける必要がなく、電気工事費用も抑えられます。

ビル用マルチエアコンのデメリット

柔軟な使用ができ、省エネ効果も優れたビル用マルチエアコンですが、デメリットもあります。

・搬入コストが高くなることがある

ビルの構造や取り付け位置によっては、ビル用マルチエアコンを設置する際に、クレーン車や重量鳶を使った搬入が必要になることがあります。

導入コストが増加する可能性があるため、事前に設置場所や周辺環境を確認し、計画を立てることが大切です。

・室外機が故障すると複数のエアコンが使えない

ビル用マルチエアコンは、1台の室外機で複数の室内機を制御しているため、室外機に問題が発生すると、すべての室内機の運転が停止してしまいます。

修理や交換が必要な場合は、関連する室内機の調整も必要となり、経済的な負担が増加する可能性があるでしょう。

・電気代が高くなることがある

ビル用マルチエアコンは、省エネ基準が低く設定されていることも多く、使用方法や使用時間、機種によっては電気代が高くなることがあり、注意が必要です。また、200Vの電源を使用することも多く、電気代の増加を招く要因となることがあります。

そのため、導入前に電気代をしっかりと計算し、高効率な機種を選定する工夫が必要です。

まとめ

ビル用マルチエアコンは、多様な室内機の選択肢と高い省エネ性能が魅力です。一方で、導入や運用に伴うコストが課題となることもあります。

適切な機種選定と適切なコスト計算を行うことで、快適な空調環境を実現しましょう。